星野源×マフィア梶田――孤独なオタクが「創造」に至るまでをひもとく,非常識な対談


 星野源さん。職業は音楽家に俳優に文筆家。ほかいろいろ。
 そのすべてにおいて非凡な活躍を見せており,エンタメ業界の最前線をひた走る大スターである。

 2016年に放送された漫画原作のTVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の大ヒットは記憶に新しく,直近では綾野剛さんとのW主演で警視庁機動捜査隊の刑事を演じた「MIU404」や,実際に起きた事件をモチーフとした小説原作の映画「罪の声」における役柄も大きな話題となった。

 そしてゲーム業界においては昨秋,任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」35周年TVCMに出演し,35周年テーマソング「創造」も2021年2月17日にリリースされて,大きな反響を巻き起こしている。



 業界の垣根を超えてさまざまな表情を見せてくれている星野さんだが,そんな彼のことを掘り下げてみると,誰もが思っている以上に“オタク”な素顔が見えてくるのはご存じだろうか?

 そして筆者,マフィア梶田はひょんなことから星野さんとプライベートで親しくさせていただくようになり,ひとりのオタクとして仕事を抜きにしても,誠実で魅力的な彼の一面をよく知るようになった。

 そんなある日,新曲「創造」について「ゲームファンにもちゃんと届けたい」という言葉を聞いたことをきっかけに,YouTubeチャンネルで絶賛配信中,“心構えだけなら飛ぶ鳥を落とす勢い”な番組「わしゃがなTV」へのゲスト出演と,4Gamerでの対談記事までもが実現した。





 テレビなどではあまりフィーチャーされない,オタクとしての星野源さん。そのルーツをたどっていき,「創造」に至るまでをひもといた先に見えたのは,親愛なる“同志”の姿だった。

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■星野源のプロフィール(公式紹介文)
1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。

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2010年に1stアルバム『ばかのうた』にてソロデビュー。2016年10月に自身も出演したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌としてリリースしたシングル『恋』は、社会現象を起こし大ヒットとなる。

2018年は国民的アニメ映画「映画ドラえもん のび太の宝島」の主題歌として『ドラえもん』を発表。その後レギュラー放送『ドラえもん』の主題歌として異例の起用となる。2019年2月からは自身初の5大ドームツアー「星野源 DOME TOUR 2019『POP VIRUS』」を開催。全公演ソールドアウトし、33万人を動員。2020年4月に自身のInstagramで発表した「うちで踊ろう」は大きな反響を呼び、コロナ禍の日本を元気付けた。

俳優として、映画『地獄でなぜ悪い』(13/園子温監督)、『引っ越し大名!』(19/犬童一心監督)、『罪の声』(20/土井裕泰監督)等に出演。アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』(17/湯浅政明監督)では声優として初主演。『逃げるは恥だが役に立つ』(16/TBS)、『MIU404』(20/TBS)などドラマ出演作も多数。

作家として著書『そして生活はつづく』、『蘇える変態』、『いのちの車窓から』を刊行。

2016年3月からはニッポン放送でレギュラー番組「星野源のオールナイトニッポン」がスタート。

僕とリナとPCエンジン

マフィア梶田(以下,梶田):
 本日はよろしくお願いします。まずお聞きしたいのが,星野さんとゲームの出会いについて。もっとも古い記憶はなんでしょう。

星野源(以下,星野さん):
 そうですね。物心ついたころには家にファミコンがありまして,それこそ最初に遊んだのが「スーパーマリオブラザーズ」でした。

梶田:
 それはなんとも,羨ましいほど最高のスタートを切ってますね。
 最初が「マリオ」となると,いきなり引き返せないくらいファミコンの魅力に取りつかれたのではないでしょうか。

星野さん:
 たしかに,延々とマリオばっかり遊んでました。あまりソフトを買ってもらえなかったんですよ。確か「グラディウス」は買ってもらったかな……。あとはお年玉で「悪魔城すぺしゃる ぼくドラキュラくん」を買ったり,友だちの家で持っていないソフトを遊んだり,ほとんど借りてましたね。「さんまの名探偵」とか(笑)。

梶田:
 ダダをこねてでも欲しいソフトはなかったですか?

星野さん:
 ちょうどドラクエ3が出たころだったんですけど,買えませんでした。行列に並んでもダメ,抱き合わせですら買えない(※当時はドラクエと関係のないソフトをセット売りする商法が流行っていた)。そして次回作のドラクエ4まで,結局は買えずじまいでした。そのあと,何年か経ってから友だちに借りてプレイしましたね。

梶田:
 名作を遊べなかったコンプレックスは,環境や年代こそ違えどよく分かります。自分は長らく海外住まいでゲームハード自体を買ってもらえなかったので。ドラクエもFFも“7から”という遅いデビューでした。
 ちなみにそのころって,ゲームに関する情報は仕入れてましたか?

星野さん:
 僕の実家は埼玉県川口市にあったんですが,そのころ地元にあったアミューズメント的な施設って,近所に1軒だけある「いろいろなモノを置いている本屋」くらいしかなかったんですよ。
 1階に本や文房具があって,2階にちょっとした玩具やミニ四駆,ついでにゲームソフトも少しだけ置いているような。

梶田:
 めちゃくちゃ分かります,それ。自分の地元もそうですが,なぜかひとつの店舗に雑多な商品が集約されてるんですよね。
 そういう場所通いは,地方オタクの共通体験かと(笑)。

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星野さん:
 うん。まさしく。それにゲームはもちろん,その本屋で人生を変えたのは「富士見ファンタジア文庫」との出会いでした。

梶田:
 まさかのファンタジア文庫! まだ「ライトノベル」というくくりではなかった時代ですね。

星野さん:
 そうそう。まだなかった。そこで表紙に引かれてたまたま手に取ったのが神坂一さんの「スレイヤーズ」でした。あれがオタクとしてのスタート地点だったんじゃないかなと思います。
 まだ萌えという言葉じゃなかったけど,小学生の僕に芽生えたあの感情はまさしく「初萌え」だったんじゃないかな。

梶田:
 もしかして,初恋のキャラがリナだったりします?
(※スレイヤーズの主人公「リナ=インバース」)

星野さん:
 そうかもしれない(笑)。
 それからスレイヤーズの連載誌「ドラゴンマガジン」を知り,ちょうど発刊されはじめた系列漫画誌「月刊コミックドラゴン」にも手を伸ばし,それらでゲームやアニメの情報も仕入れるようになっていきましたね。

梶田:
 なにがツボにハマったんでしょう? ファンタジーの世界観ですか。

星野さん:
 とくにファンタジーというジャンルに傾倒していたわけではなく,スレイヤーズ特有の世界観やキャラクターに魅せられていたんだと思います。可愛かったからかな。
 当時アニメが放送されていた「美少女戦士セーラームーン」も,観ながら,なんだろうこのドキドキはと困惑しながら観てましたね(笑)。

梶田:
 早熟ですねぇ。オタクの素質がもう開花してるじゃないですか。

星野さん:
 そんなこともあって,ジャンプやマガジン,サンデーにはなんとなく進まず,同級生が「週刊少年ジャンプ」の話をしているときに,僕は「月刊少年ガンガン」で柴田亜美さんの「南国少年パプワくん」とかを読んでいるような子供だったんです。あとはなぜか小学生で榎本俊二さんの「GOLDEN LUCKY」をそろえてましたね。いわゆる王道とは違う路線に進んでいました。

梶田:
 その年ごろでガンガンを選ぶのは,見込みありすぎる……。

星野さん:
 とはいえ,実はあまり長続きしなかったんですよ。そのあとしばらくして途切れてしまったので。

梶田:
 えぇ? オタク趣味って目覚めちゃうと抜けられないのに?

星野さん:
 僕が小学生のとき,ちょうどファミコンがスーパーファミコンに移行する時期で。家族でお出かけしたサンシャインシティの噴水広場で偶然,「PCエンジン」の販促イベントに出くわしたんですよね。

梶田:
 ふむ。多数のゲームハードがバチバチに競っていた時代ですからね。

星野さん:
 そこで僕は,一瞬にしてPCエンジンに心を奪われたんです。
 ファミコンより小さい本体なのに「なんて色鮮やかなゲーム画面なんだ!」と。衝撃を受けました。

梶田:
 まさか……。

星野さん:
 親にも言われたんですよ。「あんたスーファミじゃなくていいのか」って。でも,僕はそこで「PCエンジンがいい!」と答えてしまって。しまってとか言うのもあれだけど(笑)。機能を拡張できるというカッコよさにもシビれたんですよ。

梶田:
 同じ道をたどった人からよく聞きますよ,そのエピソード(笑)。

星野さん:
 そもそもパソコンが好きだったんです。買えなかったけど,ラオックス(※PC類に定評のある家電量販店)に通って,PC-98(PC-9800シリーズ)の売り場をウロウロしていました。NECとAppleが好きで,製品を持っていないのにPC雑誌を集めたりもしていましたね。
 父の知り合いにデザイナーをやっている方がいて,その人がApple製品を使っていたので,「MACPOWER」なんかを譲ってもらうんです。

梶田:
 ゲームハードを足がかりに,よりディープな世界にまで踏み込んでいるじゃないですか。どんどん濃くなってますけど……?

星野さん:
 巻末の中古PC情報を見ながら,PC本体とモニター,マウスやキーボードの値段を見比べて,電卓片手に「どう組み合わせたら一番安く,自分専用のMacを組めるか」を計算しまくりました。でも当時の値段じゃどうやっても総額100万円を超えるので,絶対買えないんですけど(笑)。

梶田:
 共感を通り越して胸が締めつけられます……。どんなに憧れていても,子供だと絶対に手の届かない領域ってありますよね。
 しかし意外な方向に進んでるというか,それっていわゆる“ギーク”寄りの趣味になってませんか?

星野さん:
 そうですね。だからこそ,拡張性のあるPCエンジンのCD-ROM2(シーディーロムロム)にすごく夢を感じていたし,超欲しかったんです……なのに,買えたのは「コアグラフィックスII」まで。
 HuCARDで遊べる新作も徐々に出なくなって,そこでパッタリ。ゲーム自体をやらなくなってしまったんですよ。

梶田:
 なるほどなー! それはしょうがない……!

星野さん:
 それと中学生になってから,音楽と演劇に出会ってそっちにのめり込んでいきました。ゲームやアニメと距離ができて,そのまま自然消滅的にオタク文化との関係が途絶してしまったので。

梶田:
 リアルタイム世代じゃない自分でも,PCエンジン周りの値段感やたどった道のりなどは知っているので,ゲームのほかにも興味の対象があればそうなってしまうのもやむなしというか……罪深いな,PCエンジン!

星野さん:
 いやいや,あそこでPCエンジンを選んだのは“僕”ですから(笑)。後悔はしていないですよ。
 もちろん,去年発売された「PCエンジン mini」はすぐ買いました。「わしゃがなTV」での実況プレイで中村悠一さんも語っていましたが,本当に音がイイんですよね。あのハードは未来を見据えていました。でも早すぎた,早すぎたんですよ。

梶田:
 当時スーファミじゃなくPCエンジンを選んだこと,それもオタクとしては良き思い出ですね。

他者との間には深い川が流れていた

星野さん:
 まぁ「3DO」なんかにも興味はあったんですけどね。

梶田:
 それはですね,星野さん。“俺のルート”です。

星野さん:
 あっはっは(笑)。

梶田:
 そのころ,ついに親を説き伏せてゲームハードを買ってもらえることになったんですが,そこで親父が選んできたのが「3DO REAL II」ですよ。「松下電器のヤツから聞いたぞ,次に天下をとるハードはコレだってな!」と自信満々のドヤ顔で。

星野さん:
 最高。すばらしいギフトじゃないですか!

梶田:
 ちっともよかないですよ!
 今なら笑い話にできますけど,周りがプレステだ,セガサターンだって盛り上がっているのに,3DOはソフトのラインナップが奇妙な洋ゲーだらけで,クラスメイトの誰とも話が合わなかったんですから……星野さんは当時,そういう話ができる友達っていたんですか?

星野さん:
 いなかったですね。友達は2人3人いたけど,それを共有できる人はほんとひとりもいなかった。孤立してましたね。例えば小学生のころ,プールの時間にみんなが水面で「かめはめ波」や「ソニックブーム」を撃っているなか,ひとりだけ「竜破斬(ドラグ・スレイブ)」を詠唱していましたし。

梶田:
 完全なる陰の者……いや“黄昏よりも昏きもの”ですわ。周りにスレイヤーズを分かるヤツがひとりでもいれば超仲良くなれそうなのに。

星野さん:
 イタい男子でしたね。それはゲームやアニメだけでなく,音楽と演劇に興味が移ってからも変わらずで。クラスの人気者の輪に入ろうとしても,なんかね。あぶれる(笑)。そもそもコミュニケーションが得意じゃなくて,学校からの帰り道も3人組の後ろにひとりでついていくようなタイプだったんですよ。本当になんでか分からないけれども,いつも決まって後ろのほうにいる。そうなってしまうんです。

梶田:
 あぁ……自分とまったく同じです。苦い記憶が蘇って,それ以外に言葉が見つからない。

星野さん:
 今所属している「大人計画」も,僕は高校生のころ好きになったのですが,大人計画を知っている人は周囲に誰もいませんでした。今でこそ阿部サダヲさんや宮藤官九郎さんなどがメジャーですが,当時はまだ「怖い人たちが怖いことやっている」と思われてしまう,アングラな雰囲気が漂っていたんです。観に行く高校生はほとんどいなかったんじゃないかな。

梶田:
 今でこそ普通の中高生が観劇に行くのも珍しくないですが,その当時だとかなりディープな世界。気軽には踏み込めないでしょうね。

星野さん:
 音楽でも,僕が大好きで,現在は僕の師匠である細野晴臣さんの楽曲や,バンド「はっぴいえんど」も再評価前だったので。学校内に気持ちを共有できるような友人はほとんどおらず,自分の“好き”をただひとりきりで培養してきたような人生だったんです。

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梶田:
 芸能界に興味が薄く,テレビもほとんど観ない自分がなぜ星野さんに惹かれるのか……今分かったような気がします。
 ずっと星野さんの楽曲には“物語”を感じていて,それって思い出のアニメやゲームに対して感じるモノに近かったんですよ。音楽とストーリーが一体になっているからこそ呼び起こされる“追体験”というか。なんでこんな,タイプもなにもかも違うのに,自分の人生の一部のように感じるんだろうって。これはきっと,同じ“孤独なオタク”として生きてきた者だからこそ得られる共感だったんです。

星野さん:
 そう言ってもらえるとうれしいです。さきほども話したように,自分は幅広くアニメやゲーム知識があるわけじゃないんです。むしろオタクだったらこれ知ってなきゃみたいなものはあんまり知らない。だから自分で自分のことをアニメやゲームオタクだとは言えないんです。
 ただ,一度好きになった作品に関しては,その作者の来歴や影響を受けたモノまで知りたくなってしまう性質なんです。そういったことを調べては,どんどん深く掘り下げていくのを楽しんでいました。

梶田:
 オタクの定義は曖昧なものですが……重要なのは知識の有無ではなく,“好き”という感情に本気で向き合える人間のことを指すんだと,自分は考えています。その観点から見れば,間違いなく星野さんは生え抜きのオタクですよ。

星野さん:
 ありがとう。僕が小さいころはインターネットもなかったし,雑誌の文通に手を出せるタイプでもなくて。ただ好きになって,ひとりで盛り上がって,ひとりで考察する。周囲と共有できない以上,そうするしかなかったんです。それを知らない人に「僕はこれが好き」と主張することもできない。僕と他者との間には常に深い川が流れていて,向こう岸に渡れなかった。

梶田:
 だからこそ,純粋培養。そうした孤独を知る星野さんの歌詞はとても私小説的というか,真に迫るメッセージがあって虚飾を感じないんですよね。自分は星野さんの歌に“オタクの生き様”を見出しましたが,これがまったく立場や趣味嗜好が違う人なら,それはそれでまた別の解釈で星野さんと自分を重ねるはず。「伝えること」に飢えていたことで育まれてきたエネルギーが,現在の爆発力を生んでいるんじゃないでしょうか。

星野さん:
 でも,楽器をやりはじめて,少しずつ歌作りをはじめたときから変わっていきました。そういえば,僕にとって最初のアルバムは,自前のカセットテープに「星野源 ファーストアルバム」と書いて録音したものだったな(笑)。

梶田:
 あぁ,それは聴いてみたいなぁ(笑)。

星野さん:
 ひどい出来だったと思うけど,勇気を出して友だちに聴いてもらったりしたんです。そしたら「めちゃくちゃイイじゃん!」と言ってくれて。その瞬間,自分と他人の間にある深くて渡れなかった川に橋がかかったような気がしました。それまで僕がどんなにがんばっても他者の領域には入れなかったのに,自分の領域を開放すると相手から入ってきてくれた。そこで思ったんです。僕は“コレ”でならコミュニケーションができるのかもしれないと。
 そのときから,僕にとってのモノづくりは他者とコミュニケーションをとる手段にもなりました。それが一番簡単なやり方だったんです。

リトライから「創造」へと至る

梶田:
 合点がいきました。星野さんの音楽って間口が広いのに,いざ好きになっていろいろと聴いてみると,尋常じゃないくらい難しい表現に挑戦していたりするんですよね。例えばそれが前面に出ていると足踏みしちゃうけど,星野さんの場合は気軽に領域へと踏み込んでから気づかされる。
 そのころにはすでに“星野源の音楽”とのコミュニケーションが成り立っているから,スッと受け入れることができるんです。

星野さん:
 難しいことを難しく表現するのは簡単なんですよね。反対に,難しいことを誰にでも分かりやすく,簡単なものに見せるのは本当に難しい。
 だけど,それをやってこそのプロで,僕の好きなことなんです。

梶田:
 とても分かります。自分もライターとして師匠から「バカでも分かるように文章を書け」という教えを受けていて,一見すると言い方は悪いんですが,これって「難解な表現に逃げず,誰にでも読める文章を書いてこそのプロである」という心構えの話なんですよね。
 その教えを守ってきたおかげか,とても嬉しいことに読者の皆さまから「マフィア梶田の文章は読みやすい」という感想をいただくことが多いんです。万人に向けて伝える文章を意識していなければ,こんな自分が世の中に受け容れてもらえることもなかったと思っています。

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星野さん:
 いいですね。「創造」の1番Bメロ「あぶれては はみ出した 世をずらせば真ん中」という歌詞にも,今の話に近い想いが込められてます。
 自分がどんなにあぶれていても,はみ出していても,世の中の方をずらしてしまえば自分が真ん中になる。そういった考え方が,今の僕のモノづくりの中核になっています。

梶田:
 とくに好きな歌詞です! そこと「進化を君に 外れ者に授ける」という部分。とても自意識過剰で恥ずかしいのですが「あぁ,俺のことを歌ってくれている」と感じてしまいました。星野さんは陽のあたる世界にいながら,あぶれ者やはみだし者と同じ地獄にも寄り添ってくれる。
 「創造」でもその姿勢がブレていなくて,深く感動したんです。

星野さん:
 それはうれしい。うれしいなぁ。



梶田:
 なぜなら自分が星野さんを好きになったきっかけは,映画「地獄でなぜ悪い」なんです。同名の楽曲「地獄でなぜ悪い」の歌詞にも衝撃を受けました。さきほどの「自分のストーリーのように感じる」という話にもつながるのですが,自分がこの世界を生きることに対して抱いている気持ちをすべて歌にされたような気持ちになったんですよ。本気で「なんで!?」って思いました。失礼な話,それまで漠然と有名タレントという認識しかなかった星野さんのことが突然,とても気になる存在になったんです。



星野さん:
 ありがとう。初めて会ったときもその曲好きって言ってくれたよね。

梶田:
 それと,星野さんは作品へ楽曲を提供するときのリスペクトがすばらしいです。映画「ドラえもん のび太の宝島」の主題歌「ドラえもん」なんかも,キャラクターと真正面から向き合った歌詞に深い原作愛を感じました。オタクとしては,やはり作品を大事にしてくれる人かどうかっていうのはとても大事な要素なんです。
 「創造」にしたってそうです。横井軍平さんの名言を引用したくだりなんかは,心からシビレました。

星野さん:
 “枯れた技術の水平思考”ですね。僕は昔から横井さんのことが好きすぎて,以前にやっていた「SAKEROCK」というバンドで「GUNPEI」という曲を作ったこともあります(笑)。
 任天堂の方々については岩田聡さんや宮本茂さんもそうですが,モノづくりに対する姿勢というか,その考え方,思想にすごく影響されています。

梶田:
 そこで気になったのは,スーファミではなくPCエンジンを選び,ゲームから離れていた星野さんが,任天堂のそういった思想に触れるタイミングってどこにあったのかな,と。

星野さん:
 それについては,すべては有野課長のおかげで(笑)。高校を卒業したあたりではじまった「ゲームセンターCX」。あの番組のおかげで,ゲーム熱がよみがえったんです。無性にファミコンをやりたくなってしまって,そういえばもう自分でお金稼げるな,生活は厳しいけれどもバイトすれば買えるな……というわけで,ファミコンを買い直したんです。
 そこからゲーム人生にリトライしました。

梶田:
 おかえりなさい! ちなみに復帰後,最初に遊んだタイトルは。

星野さん:
 小学生以来,ゲームから離れていたから,どんな作品が出ているのか,まったく知らなかった。そういう,ほとんど知識のない状況下でなんとなく感覚的に手に取ったのが「MOTHER」でした。

梶田:
 的確に最高の1本を選んでいきますやん……マジでなにも知らずにジャケ買いしたんですか?

星野さん:
 マジです。ゲームの経験値がほとんどない20歳の男が,なにも事前情報がない状態であのMOTHERを遊べたんですよ。それはもう,すばらしい体験で! エンドロールで“あの名前”が出るところで,そのアイデアに大号泣しちゃった。

梶田:
 それは……ゲームから離れていた期間を考えても,お釣りがくるくらい羨ましい体験ですよ。自分がMOTHERを初めて遊んだころって,もうゲーム雑誌やネットで散々ネタバレ含めて語り尽くされていたので。できることなら前情報なしで遊んでみたかった!

星野さん:
 うんうん。MOTHERに影響を受けた後続作品も知らないし,なんにも知らないでやれて。砂漠のとこなんか,本当につらくて! どうやったら行けるんだよって。バイトから帰ってきてはMOTHERを遊ぶ日々でした。

梶田:
 めっちゃ分かる(笑)。俺も砂漠で詰みそうになりましたよ!

星野さん:
 MOTHERのおかげで「ああ,ゲームってなんて面白いんだ!」と再認識できて,そこから「スーパーファミコン」や「NINTENDO64」,「PlayStation」にも手を伸ばして,どんどんのめり込んでいきました。
 するとですね,これがまた好きな作品になったから,ルーツをたどりたくなるわけです。それで横井さんのことを知って虜になり,宮本さんや岩田さんへの興味も広がって。ゲームだけでなく関連書籍も買いあさったりして,もうズッブズブです。

梶田:
 なるほど,そこで得た感銘が「創造」の歌詞につながるわけですか。

星野さん:
 歌詞の「直接に」って言葉はまさに岩田さんの「直接!」そのまんまですし。そして岩田さんがいつかの決算説明会でおっしゃった「私たちは,これからもきっと,非常識と言われるような提案をするでしょう。それが任天堂という会社のありようだと、私は思っております」……何度聞いても鳥肌の立つ名言ですよね。

梶田:
 「創造」の歌詞のなかでもとくに印象的な部分になってますよね。

星野さん:
 常識というのは,常に過去の慣例を束ねたものであり,現在でも通用するという意味ではない。であれば非常識を目指すべきだと。世の中の常識から外れたところにある,まだ見ぬ新たな中心を目指すこと。そんな任天堂を見ているからこそ,僕がさっき言った自分が中心に来た経験と重ね合わせて,「あぶれては はみ出した 世をずらせば真ん中」という歌詞を書きました。
 任天堂は,いつの世でもゲーム業界に新たな非常識を打ち立て,常識に変え,常に真ん中に居続けていますよね。

梶田:
 常に先陣をきって非常識を常識に変えていく。目を見張る発想です。

星野さん:
 シビレますよね。超カッコいい。

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梶田:
 星野さんの任天堂に対する多大なリスペクトが伝わってきます。ほかにも「YELLOW MAGIC」(イエローマジック)という響きが美しくて。YELLOWというワードは星野さんの楽曲にたびたび登場しますよね?

星野さん:
 その原点は「イエロー・マジック・オーケストラ」(YMO)なんですけど,「創造」で歌っているYELLOW MAGICについては,もうひとつ大きな意味があります。初代マリオのカセットって黄色なんですよ。
 あの色は「世界を魔法にかけたイエロー」なんです。任天堂はあの黄色のカセットで世界を変えたんですよ。

梶田:
 うぅむ。思わず唸ってしまいました。なんて美しい文脈。

星野さん:
 あっ,「NES」(※Nintendo Entertainment System。海外販売されたファミコンベースのゲーム機)のマリオのカセットは灰色だけど(笑)。

梶田:
 わはは(笑)。NESのことはまぁ,さて置き!

星野さん:
 TVCMでも「YELLOW MAGIC」って歌っているとき,あわせてマリオのカセット持ちたいと言って,実際に手で持ちました。
 あと,裏話としては……2番Aメロの僕の歌,実はファミコンのツーコン(2Pコントローラ)のマイクで録音したんですよ。

梶田:
 マジですか!? マリオのSEを流用せずにイチから弾き直しているとは聞きましたが,ファミコンのツーコンマイクを録音機材に!?

星野さん:
 あれがまた超イイ音が出るんです。ちゃんと実機のファミコン使って出力したので,独特なノイズはあるけど温かなイイ音で。

梶田:
 まさに枯れた技術の活用。歌詞だけでなく,実践してみせるとは。

星野さん:
 そうそう。古いけど,ものすごく音がいい。当時の機材舐めんなよって感じです。

繰り返し生まれ変わる

梶田:
 まず,星野さんじゃなければ思いつきもしない方法でしょうね。想像力のバケモノだ。あとはゲーム的な要素だと,「繰り返し」はストレートに何度も死んでよみがえるゲーム性を指しているのかなと。

星野さん:
 死んでもまた生き返り,再挑戦を繰り返す。マリオはゲーム内でもそうですし,何作品もそれを繰り返していますよね。
 自分も以前,くも膜下出血で倒れたことがあって,そこから戻ってこられた経験を重ね合わせて歌詞に書いています。

梶田:
 「地獄でなぜ悪い」もその時期に生まれた曲ですよね。つらい記憶に触れて申し訳ないのですが,死に直面した経験は星野さんのクリエイティビティに大きな影響を与えたのではないでしょうか?

星野さん:
 あのとき手術が成功して,長い療養期間の中で「人生もっと遊んで楽しまなきゃ」と強く意識するようになりました。そして「死の先にはなにもない」ということも知りました。死の先にある“無”を肌で感じたあの日,僕は生まれ変わったんだと思います。

梶田:
 死を想う,というのは難しいものです。直面してみないと実感を持てない。自分も幼いころは身体が弱く,幾度も入院しては「今夜が山だ」と言われてきました。そのせいか,こんな大男に育った今でも死を身近に感じていて,明日にでも死んでしまうんじゃないかと,常に頭から離れないんです。だから,後悔がないように刹那的な生き方を求めてしまう。

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星野さん:
 僕は病気をする以前から,死を連想する歌を作る傾向がありました。それは死に“ロマン”を感じていたんだと思います。本当に死にかけてから,死にロマンなんてないということが分かった。孤独と,痛みと,病院の天井しかない。だから,生きているうちにしかロマンはないんです。
 ……ほんとつらいよね,入院って(笑)。

梶田:
 まったくです。自分にとって地獄とは,あのベッドの上で過ごした時間です。それにしても,星野さんとお話ししていると本当に不思議な気持ちなります。音楽家であり,役者であり,こうして対談していると“伝達力”に長けた物書きであるという実感もわいてきて。
 本当にシンプルな疑問なんですが,なぜすべての活動でそんなに高いパフォーマンスを発揮できるんですか?

星野さん:
 うれしいなぁ。ありがとう。
 一度やりはじめたら,中途半端な状態でやめたくないと思うタイプなので。今のお仕事に関しても,例えば音楽で有名になって,その知名度に乗っかって役者をやるようなことはしたくなかった。ちゃんとひとつひとつ,それぞれで一人前になりたかった。それもあり,別々で活動していたんです。だから今も,音楽と役者で所属する事務所が違うんですよ。

梶田:
 自らの活動に線引きをしたうえで,挑戦するという覚悟ですね。

星野さん:
 はい。どれもまずは「やりたい」という気持ちから,身体ひとつでスタートしてきました。文筆業を一例とすれば,僕はもともと文章を書くのがとても下手だったんです。メールの返信ですら苦痛なレベルで,気持ちや感情をまったく文字に書き起こせない。だったらいっそのこと,「仕事にすれば強制的に書かなきゃいけないな!」と考えたんです。

梶田:
 発想が飛躍しすぎる……。

星野さん:
 それからすぐ知人の編集者さんに営業をかけて,文章を書かせてもらうことになりました。キャリアのスタートは紙面欄外の90字。それすら大変でしたが,次第に400字になり,2000字になり。その道に踏み込んだ以上,途中でやめられないじゃないですか。そうやって続けていく。

梶田:
 自分に向いていない仕事への挑戦は,怖くはなかったんですか?

星野さん:
 練習して一人前になってから世に出したいって,みんな思うんです。でも人前に出すことほど成長できることはない。僕は音楽や演劇の経験で「人前に出ないと上手くなれない」ことを身に沁みて実感しています。
 完璧ないいモノだけを世に出すのは土台無理と言いますか,恥をかかなきゃ成長できない人間なので。

梶田:
 同意です。どんなに練習しようが,結局は現場での学びがもっとも成長につながるんですよね。それにしてもワーカホリック気味というか……結構いるんですよね。星野さんみたいに仕事しすぎる,リミッターが外れているタイプのクリエイター。

星野さん:
 昔はドラマを撮影しながらアルバムをレコーディングして,合間でエッセイも書いてと,すべて同時進行でやっていました……でも,また倒れたりするのは嫌ですから。現在は「ひとつの時期にひとつしかやらない」と決めて,目の前のことだけに全力で向き合っています!

梶田:
 それにしても,いつ寝ているんだろうかと。そもそも星野さんの楽曲からはなんとなく“夜”を感じることが多くて。夜行性なのかなって,勝手に思ってます(笑)。

星野さん:
 梶田くんに返事する時間帯もおかしいもんね(笑)。モノづくりに関してはそのとおり,夜間になると作業がよく進みます。とくに深夜の空気が好きなので。

梶田:
 そうそう,そういう真夜中のひんやり澄んだような匂いがするんです。そういえば星野さん,初めて会ったときに俺が出演しているラジオなどを聴いてくれていると話してくださったじゃないですか。
 俺の出ている番組はそんなに深い時間でもないですが,ラジオ好きなのって夜行性の特徴だなって思うんですよ。

星野さん:
 ラジオはずっと好きだなぁ。中学生のころから「コサキンDEワァオ!」が大好きで。僕の通っていた中学は,電車通学に片道2時間かかっていたんですよ。だからラジオ番組をカセットに録音して,まずは朝の通学時にそれを聴いて,帰宅時にまた聴いて。ひとつの番組を1週間ずっと聴きまくるっていうサイクルだった。

梶田:
 しゃぶり尽くしているじゃないですか(笑)。
 不思議とラジオってほかの媒体とはまた違って,そういう熱心なファンがついてくれるんですよね。独特の連帯感というか,リスナーをイジる文化がそうさせるのかもしれないですけど。

星野さん:
 僕も今はオールナイトニッポンを担当させてもらっていますが,冗談でときどき「深夜ラジオを聴くやつに友達はいない!」ってイジったりしますし(笑)。

梶田:
 あるある(笑)。でも,そういう言葉で孤独が和らいだりするんですよね。ほかのメディアよりもファンと気安い関係で,とても身近に感じられたり,ひとりじゃないと思えたり。

星野さん:
 心地よい距離感だよね。

オタクとしての星野源

梶田:
 でも,その一方で星野さんに対して「ずっと昼間を歩いてきたようなイメージ」を持っている人もかなり多いじゃないですか。

星野さん:
 人生を順風満帆に生きてきたいわゆる「陽キャ」というやつ?

梶田:
 そうそう,それです。

星野さん:
 僕はきっと,そういうふうに誤解されているんだろうね……。テレビで「星野源でーす!」って明るく歌ってたもんね(笑)。
 でもそれは,自分が音楽番組に出るうえで気取ったり,スカすのが嫌だったんですよ。アーティスト気取りは誰にでもできるけど,それだけじゃ伝わらない。カメラの先にいる,ひとりでも多くの人々の関心を引かなければならない。それにはカメラのレンズに手突っ込んで,画面の向こう側の首根っこ掴んで,こっちに振り向かせなきゃと思ったんです。

梶田:
 ああ,やっぱり。実は自分も根が暗いくせに,メディアに出るときは必要以上に明るくおどけてしまうんです。それは少しでも視聴者に楽しい気持ちになってもらいたくて,例えばゲーム番組のMCなら雰囲気からして「面白そうだな,楽しそうだな」と思ってもらいたくてやっていることなんですよね。そのせいで,ちょっとでも油断して素を出すと「なんか今日は元気ないね」って心配されるのが最近の悩みです(笑)。

星野さん:
 わかる(笑)。みんなに振り向いてもらうための手段として身振り手振りをしていたら,こうなっちゃっただけ。

梶田:
 自分とは比べ物にならないくらい重圧のかかる世界でそれをやっていることについて,ただただ尊敬しています。だからこそ,安易に「陽キャ」とカテゴライズされるのは友人として,ファンとして勝手に「それは違うよなぁ」と感じていて。「わしゃがなTV」へのゲスト出演やこの対談は「創造」のPRだけでなく,そういった勘違いをせめて自分の手の届く範囲でだけでも解消したくて,セッティングさせていただいた面があります。

星野さん:
 ありがとう。そうやって受け入れてもらえると嬉しいよ。自分には,例えばアニメやゲームの「オタクならこれ知ってないと」っていう定番の基礎知識はないから,オタクと名乗ることはできないと思っていて。好きなものはどっぷり好きなんだけどね。

梶田:
 大抵の人はですね,面白い作品に触れてもそこで完結するんです。星野さんのように好きなモノのルーツをたどるのは,もうオタク特有の行動なんですよ。何度も言うようですが,知識量なんて関係ないんです。“己の好き”を追求するその姿勢,生き様そのものがオタクなんです。

星野さん:
 そうだね。オタクってなろうと思ってなるもんじゃなくて,気がついたらなってるものだもんね。否が応でも逃れられない。

梶田:
 というか動画でも触れましたけど,「Serial experiments lain」(シリアル エクスペリメンツ レイン)のアニメを繰り返し観ているような人がオタクじゃないわけないでしょ(笑)。

星野さん:
 がははは(笑)。そうね。lainはことあるごとに見返してる。あの,第1話の玲音が家を出たところの音。あれはヤバいよね。ぜひイヤホンで聴いてみてほしい。あの音は本当にヤバい。lainは作品を通じて音の処理がすごくて,世界観がより深く感じられるのよ。

梶田:
 得意ジャンルでのいきなり早口!

星野さん:
 いま思い出したけど,「ドラえもん」の歌を発表したときに,桃井はるこさんがTwitterでほめてくださったことがあって。すごくうれしかったですね。オタクカルチャーをその身ひとつで切り開いてきた桃井さんにそう言ってもらえたなら,この歌はアニメソングとして完成したと思えて。あのときは本当に勇気をもらいました。

梶田:
 モモーイは偉大だ!
 しかしお話をうかがってると,孤独なオタク体験が創作の原動力となっているのは確実ですよね。変な話,俺も「帰りにサッカーやろうぜ!」とか言える子供だったなら,今この世界にいなかったでしょうし。

星野さん:
 今の子供にはもっと多様なルートがあると思うので,今もそうだとは思わないけれど,僕が幼少期にそういう子供だったら,僕もこの世界にいなかっただろうね。

梶田:
 なぜゲームで遊び,アニメを観るのか。現実からの逃避である一方で,現実よりも豊かな学びが得られる尊い時間だったと思います。

星野さん:
 僕もゲームやアニメ,音楽や演劇から人生を学んだ。ぜんぶ人が作ったモノだから。「創造」で言うなら「襷(たすき)抱いた 遊びを繰り返し」って部分ですかね。そもそも僕の人生には先祖がいて,彼らががんばってくれたから,今の自分がいる。命の襷を繋いでくれたことに敬意を払っています。僕も襷を持っているし,任天堂もそう,lainもそう,桃井はるこさんもそう。現代でモノづくりをしている人たちは,たとえ自覚がなくとも誰かの襷を受け取っている。そして次の誰かに襷を渡していくんです。

梶田:
 それを繰り返し,繰り返し。また創造へと至る。

星野さん:
 マリオだって襷を背負っていますからね。

梶田:
 マリオは背負いすぎている(笑)。最初はほんと,ただヒゲのおっさんだったのに。

星野さん:
 そう。ヒゲのおっさん。だけど僕がマリオを好きなのは“ただのおっさん”だからこそです。それが親しまれ,広く愛され,世界的なキャラクターになった。ただのおっさんがですよ? それこそまさしく非常識を常識に変えてしまった最大の例じゃないですか。めちゃくちゃカッコいい。僕はそういう存在が大好きだし,そういう人たちに勇気をもらってきたから,そうありたいと願うんです。

外れ者が世界を進化させる

梶田:
 この対談を通して,星野さんのことをもっと好きになれた気がします。さて,本当に話題は尽きないのですが……そろそろまとめに入りましょう。あらためて星野さんから読者に向けて,「創造」にちなんだメッセージをいただけますでしょうか。

星野さん:
 「創造」の歌詞には,「進化を君に 外れ者に授ける」という一節があります。どの時代にもあぶれてしまう「外れ者」や「変なヤツ」が想像力をもって,空想から創造を練り上げてきた。外れ者こそが人を進化させてきたんです。

梶田:
 つまり,アウトサイダーがいなければ進化は起こり得ない。

星野さん:
 ただ,悪意を持って周りに迷惑をかけるやつや,かっこよさと思ってわざと周りと外れたことをしようとするやつは論外ですよ。それは決してアウトサイダーではない。そうじゃなくて,真面目に,真っ直ぐ生きているのにあぶれてしまう人,そういう人が次の時代を作るんです。

梶田:
 今ではオタクも一般化して,SNSのおかげもあり“好き”の共有をしやすい時代です。そんな世の中でさえあぶれてしまう外れ者がいるんだとしたら,星野さんや俺の時代よりも抱えている孤独は深いのかもしれません。「創造」のメッセージが,そんな生きづらさを“進化の過程”と捉えるきっかけになるといいですね。

星野さん:
 うん。創造を聞いて,そういったメッセージを楽しく感じてもらえたらうれしいですし,それをきっかけに僕のほかの音楽にも触れてくれたらうれしいですね。

梶田:
 星野さん,本日はどうもありがとうございました。
 ……やっぱり,1時間程度じゃ尺が全然足りないですね!

星野さん:
 そうだね(笑)。次は3時間くらい話そう!

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